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横浜地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決 1955年12月28日

原告 松島ゐそ子

被告 横須賀税務署長

訴訟代理人 武藤英一 外四名

主文

被告が昭和二十七年一月三十一日附を以て原告に対しなした昭和二十五年度分所得税の確定申告に対する更正決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

(一)  原告は肩書地において料理旅館業を営むものであるが、昭和二十六年二月二十八日、青色申告書を以て被告に対し昭和二十五年度の所得金額九十四万二千七十九円の確定申告をなした。

(二)  ところが、被告は昭和二十七年一月三十一日附を以て、原告の昭和二十五年度の所得金額を百六十三万二千二百七十七円と更正し、原告は同年二月九日その旨の通知を受けた。けれども右更正決定の通知書には更正の理由が全然附記されていなかつた。

(三)  従つて右更正決定は所得税法第四十六条の二第二項の規定に反し違法である。

(四)  原告は昭和二十七年三月一日附を以て法定の期間内に東京国税局長に対し審査の請求をなしたが未だに何等の決定を得ない。

(五)  よつて原告は本訴において右違法を理由として前示更正決定の取消を求める。

と述べ、被告が昭和三十年六月十一日書面を以て原告に対し更正の理由を通知したことは認めるがこれによつてさきの更正決定の違法が治癒されるべきものではないから、被告の主張は理由がないと述べた。

被告指定代理人は原告の請求を棄却する。との判決を求め、原告主張の事実のうち(一)(二)及び(四)は認めるが(三)は否認する。

(イ)  青色申告について所得税法第四十六条の二により更正決定がなされる場合においてもその決定の本質は、申告にかゝる所得金額ないしは所得税額を更正することにあるのであつてその更正理由の如きは更正決定の通知に記載すべき単なる附随的事項にすぎない。従つて更正額を決定しこれを申告者に通知すればそれだけで、更正処分として完全に効力を生じ、たまたま、その通知に更正理由の附記をかいていたからといつて、その更正処分を何等違法ならしめるものではない。

(ロ)  仮りに、そうでないとしても、被告は昭和三十年六月十一日書面を以て原告に対し更正の理由を通知したのであるからさきのこの点に関するかしは既に補正されたのであつて本件更正処分には最早や何等の違法はない。

と答弁した。

<立証 省略>

理由

一、原告主張の(一)(二)及び(四)の事実は当事者間に争いがない。

二、思うに所得税法第四十六条の二第二項の規定は納税者があらかじめ政府(税務署長)の承認を得て、一定の帳簿書類を備付け、その正確な記帳に基いて提出されるべき青色申告書について政府(税務署長)がさらに更正を行ふ場合には必ず事前にその帳簿書類を調査し、その調査したところに従い更正と同時にその理由を明かにすべきものとし以て、濫りに更正すべきことを防止し、納税者の権利、利益をも尊重して所謂青色申告制度の適正な連行を期せんとするものであるから青色申告書について更正決定がなされる場合は必ず同時にその理由を通知書に附記しなければならないのであつて、その理由を全然附記しないでなされた更正処分は右規定に反し違法であつて取消しを免れないものと解すべきである。

そしてかくの如く更正理由の附記を全然欠いた場合にはたとえ後日に至つて理由の通知がなされてもそれによつてさきの更正処分の違法が治癒されるものと解すべきではないから被告より本訴の提起後その主張の如く原告に対し更正理由の通知がなされたことは当事者間に争いがないけれどもそれによつてさきの更正処分の違法が補正されたものとする被告の主張は採用しない。

三、よつて右違法を理由として本件更正処分の取消を求める原告の請求を正当と認め訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山村仁)

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